認知、資源、感情の制約

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今年3月に、採用に関する本を出版しました。パフの釘崎さんとの共著で『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)というものです。この本は実用書であり、実用書を書くのは私にとって初めての経験でした。

【参考】書籍のAmazonページ

採用に関わる多くの方に読んでいただけるよう、かつ、実用的であるように、執筆の際に一つの工夫をしました。すなわち、人や組織の持つ「制約」に注目しました。

経営学の中では一般的に知られていますが、人には「認知」の限界があり、組織には「資源」の限界があります。人は無限の選択肢を検討できるわけではありませんし、組織は無尽蔵にお金や時間等を投じられるわけではありません。

これらの限界は制約を生みます。しかし、よく考えてみると分かる通り、制約が存在しない実践などありません。また、重要なことに、制約を意識したことで、本の中で示すノウハウを制約の程度を考慮して活用していただける可能性が開けました。

例えば、採用予算の大きさは、資源の制約を構成する要素の一つです。採用予算をたくさん持つ企業はこのノウハウはそこまで気にしなくても良いが、あまり持たない企業は実践するに値する、といった具合に、本の内容を理解できます。このように制約を想定することで、様々な環境下で採用に関わる方に読んでいただける本になったかと思います。

更に執筆プロセスにおいて、新たな制約の存在に思いが至りました。それは「感情」の制約です。今回の本では、採用の世界で共有された「誤った常識」を批判していますが、同時に何故そのような常識が受け入れられているかも考察しています。誤っているとはいえ、ある考え方が受け入れ続けていることには、それなりの理由があるはずです。

様々な常識について、それが受け入れられている理由を考える中で、しばしば挙げられる理由があることに気づきました。それは「感情」をめぐる理由です。特に「不安」と「嬉しさ」が基盤となって、誤った常識が存続しているケースが少なくないのです。

例えば、大規模な候補者群を形成しておかなければならないという常識は、そうでなければ採用計画人数を充足できるか「不安」だから、という理由が寄与していますし、志望動機を選抜に用いるという常識は、志望動機を語ってもらえると「嬉しい」という理由が影響しています。こうした感情の制約がもたらす影響は少なからずあるものだと、今回の本を書きながら学んだのでした。